NHK・首都圏ネットワーク・特集「変わる教育現場」
2002年12月16日(月)・17日(火)・18日(水)

<第2回・絶対評価が塾を変える>

◇スタジオ映像:アナウンサー

2回目の今日は、通知表の絶対評価についてです。

絶対評価は、教師が設定した目標を生徒一人ひとりがどれだけ到達できたかに応じて、5段階の評定が付けられます。従来の相対評価のように、「5は何人、4は何人」という人数制限はありません。



教師はご覧の4項目で生徒を評価します。相対評価の際に重視されがちだった「知識・理解力」のほかに、「意欲・感心」、「思考・判断」、そして「技能・表現」があります。そして評価にあたっては、授業中の態度、宿題、小テストなども、以前よりも重視する学校が増えています。

通知表、つまり受験の際の内申点に絶対評価が導入されたことで、学習塾も、新たな対応を迫られています。

◇参考映像:東京・武蔵野のある塾(ジャムスクール)の様子



東京・武蔵野市にあるこの塾は、絶対評価の導入に伴って、新たな指導を始めました。学校のレポートや宿題の質問を受け付けたり、書き方を指導したりする時間を、新たに土曜日に設けました。



この日の題材は、学校の宿題で出された奈良時代など歴史のレポートです。図やグラフを使っているか、自分の考えを盛り込んでいるかなど、ポイントを指摘した上で、友達のレポートと見比べました。自分の弱点に気付き、良い点を学ぶためです。

インターネットを活用して、参考資料を検索する方法も指導しました。印刷した資料を、ただ切り抜いて貼るのではなく、自分の言葉や絵を加えてみる、こうしたきめ細かなアドバイスは、生徒に好評です。



◇参考映像:塾の生徒(その1)の談話



「資料の丸写しとか、けっこうしてしまいます。自分の考えもしっかり取り込んでいくことなどを学びました」。

◇参考映像:塾の生徒(その2)の談話




「絶対評価に変わって、提出物が重視されるようになってきて、こういうのを教えてもらうのはとても役に立つと思いますし、これかが高校・大学と行く上で、すごく役立つと思います」。


◇参考映像:東京・武蔵野のある塾(ジャムスクール)の様子



塾長の則竹陽介さん。提出物の指導に力を入れるきっかけになったのは、塾に通う生徒の1学期の通知表でした。

◇参考映像:データ


ある生徒は、7月末の数学の模擬テストで偏差値が65、1学期の通知表は5でした。ところが、別の中学校の生徒は、同じテストの偏差値は65と一緒でしたが、通知表は2で、大きな差が生じました。則竹さんは、テスト対策以外にも力を入れる必要性を痛感しました。

◇参考映像:則竹陽介(ジャムスクール室長)の談話



「今までは、偏差値を高くするような授業をしていけば、確実に学力は伸びて最終的にはそれが内申点にも結びついて、その差がなかったのですが、最近は絶対評価ということで、点数以外のところもかなり多く評価のポイントとなっています。私どもとしては、そういったところの対策に力を入れて、いろいろな手段を講じているところです」。


◇参考映像:会場模試の風景

絶対評価が始まった今年、業者テストを受験する中学3年生が増えています。大手のテスト会社が実施した都立高校入試の模擬テスト、都内の受験生の中で、自分のレベルを知ることができるとあって、受験者は去年より30%以上増えました。絶対評価の通知表に変わって、自分の成績が全体のどのあたりか分かりにくくなったことが、受験者が増えた理由のひとつと見られています。

◇参考映像:模試受験生たちの談話

「絶対評価だと各学校によって評価が違うので、模試を受ける人が多いのだと思います」。
「絶対評価は成績だけではなく授業の態度なども考慮されるので、その点はいいですが、自分の位置が明確には分かりません」。

◇参考映像:東京・西東京市のある塾のようす

通知表が変わってはじめての受験に、多くの生徒が不安を感じる中、これまで以上に進路指導に力を入れる塾も出てきました。塾長の岡田保雄さん。今月中学3年生に、2学期の内申点が示されたのを受けて、テスト会社や他の学習塾から情報を収集しています。全体的な動向を探るためです。この塾の進路指導会議です。都立高校の一般入試で、合否判定に使う得点のおよそ30%から50%あまりは、中学校の内申点です。岡田さんは集めた情報をもとに、2学期は1学期より内申点の平均が上がっている可能性があると伝えました。

2学期も終わりに近づき、塾では、受験に向けた3者面談がピークを迎えました。2学期の成績が上がったというこの生徒に対して、岡田さんは、当日の試験が楽になったと油断しないよう、釘を差しました。

◇参考映像:生徒の母親の談話

「内申点が上がることによって、当日の点が少し楽になると思いましたが、皆さんが上がっているならば、当日もしっかりと点をとらないといけないと、しっかりと自覚する必要があります」。

◇参考映像:塾長の談話

「絶対評価によって上がって点数ということで、すべてがうまく行くと考えるのは危険です。従来の情報に加えて、絶対評価における数値の見方を加えて、どうしたらよいのかを考える必要があります」。

◇スタジオ映像:アナウンサーと取材記者

絶対評価に変わってはじめての受験ということで、生徒も親も大変ですね。

絶対評価は、やる気や努力、表現力など幅広い視点から評価が行われます。目標を達成すれば何人でもいい成績になりますので、実際に励みになったという生徒は多いと思います。しかし一方で、いざ受験となりますと、内申点1点の差が合否を左右しますので、生徒や保護者にとっては、他の生徒との差というのが、シビアな問題になってきます。

そうしますと、宿題やレポートについても塾のアドバイスを受けて、より良いものにして成績を少しでも上げたいという動きが出てくるのも当然かもしれませんね。

子どもたち一人ひとりを評価しようという絶対評価も、他人との競争となる受験の現場では、これまで以上に偏差値や塾に頼ることになっている現状があるということを、しっかりと受け止めて考えていく必要があると感じました。