ももクロファンクラブ


クイックジャパン ももいろクローバーZ個人全力特集完結記念 読書感想文コンクール
大賞選考座談会での講評(クイックジャパン120号に掲載された記事)

五 事務長 「どうすれば一生懸命努力できるようになるのか」

小島 これも好きですね、塾の先生の作品。

藤井 切実な問題から発してますからね。「どうやったら生徒全員を頑張らせて成績を上げられるのか」という。この塾の先生はももクロのメンバーが抱えていた自己矛盾と解決構造から、そのヒントを見いだそうとしています。

川上 そうですね、ちゃんとした大人が書いているって感じがしました。それだけに申し訳ないですよね、いやいやウチはそんなに立派なもんじゃないですよって(笑)。

藤井 いまやももクロは「生きた教科書」になっているわけですよね。行く手を阻む壁との向き合い方、その乗り越え方。川上さんもあれだけバラバラな5人を導いてきたわけですから。

川上 いやいや、すべては本人たちですから、本当に。

小島 こういう独自の立ち位置から書かれたものはやっぱり面白いですよね。他の誰にも書けない文章になるわけですから。僕なんて、逆立ちしたって、こういう文章は書けませんよ。

クイックジャパン ももいろクローバーZ個人全力特集完結記念 読書感想文コンクール
応募作品 「どうすれば一生懸命努力できるようになるのか」

■はじめに

住宅地にある小さな学習塾の塾長として、もう25年以上、小中高生に勉強を教えている。5段階評価で3〜4くらいの成績の生徒が多く、家庭科のテストで2点とか、平方根のテストで0点という超大物は、10年に1人くらいしか現れない。生徒の大半は成績アップに成功しているが、勉強に努力しきれず成績が上がらないという生徒もたまにいる。《どうやったら生徒全員を頑張らせて成績を上げられるのか》と、いつも考えている。

アットホームな雰囲気の塾なので、生徒たちの相談にも乗ることも少なくない。生徒たちは皆それぞれに、あれこれと悩んでいる。頑張ろうとは思うけどなかなか勉強に集中できない、仲良くしようと思っているのに友だちや家族と仲良くできない、もう進路を決めなければならない時期なのにどうしたらいいかわからない、などと、いろいろな自己矛盾に苦しんでいる。

悩んでいる生徒とじっくり話し込んでも、すぐに解決できる特効薬は見つからない。見えてくるのは「こういう方向で頑張ればいいのではないか」という、ぼんやりとした方向性くらいだ。だから結論はいつも、「目標に向かって努力しろ」ということになる。

しかし、「努力しなければならない」ということくらいは、みんなわかっている。それなのに努力できないから、自己矛盾に陥っているのだ。努力して立派な業績を残した二宮金次郎や野口英世の話をしても、「努力の大切さ」はわかるが、「どうやって努力したらいいのか」はわからない。《「どうやって努力すればいいのか」をどうやって教えるか》、これが私の根本的な悩みである。

■ももクロとの出会い

どこかでピンキー・ジョーンズの映像を見た。おかしな曲だった。かわいい子たちなのに、奇妙なダンスを踊っている。サウンドはロックっぽいが、衣装はネイティブ・アメリカン風、さらにどこかの国の民俗楽器が奇妙な音階を奏でていて、国籍がわからない。歌詞は「がんばるぞ」という決意表明らしいが、1番と2番の終わりに出てくる「スットコ・ドッコイ」という歌詞が、この決意を本気だか冗談だかわからなくしている。このように矛盾に満ちた曲だが、なぜか気に入ってしまった。

その後、「サマーダイブ2011 極楽門からこんにちは」を手に入れた。メンバーの必死の表情には、鬼気迫るものがあった。しかしこのライブにも、いろいろな奇妙な点があった。かわいい子たちなのに、入場時はコマネチのポーズを決め、ヘルメットで顔を隠している。曲の合間には激しい煽り、給水は魔法のやかん。「かわいい」「いい匂いがする」というアイドルの路線だけでなく、「迫力で勝負」「汗くさい」というロックバンドの路線も両立させようとしている。汗で化粧が落ち、髪の毛が張り付いても、一心不乱にパフォーマンスを続けている。「どうしてこの子たちは、このような路線で、こんなにも頑張れるのだろうか」、「この子たちには、悩みがないのだろうか」と、不思議に思った。

■クイック・ジャパンとの出会い

初めて読んだクイック・ジャパンは、2012年6月の「ももいろクローバーZ 全力特集」の第102号。ももクロのここまでに至る険しい道のりが記されていた。

数々の試練に直面するたびに、メンバーはそれぞれに悩み、苦しむ。しかし努力を続けることで、いつしかそれを乗り越え、新たなももクロへと進化してきた。その成長スピードの早さには、目を見張るばかりだ。「どうしてこの子たちは、こんなにも速く進化できたのだろうか」「悩みをどうやって克服してきたのだろうか」と、不思議に思った。

■ももクロの根本的な自己矛盾

ももクロのメンバーは、全員が「アイドル志望ではなかった」と聞く。たまたま集められ、ももクロになってしまった。ということは、ももクロとは、根源的に自己矛盾している存在である。

自己矛盾に陥ったままでは、心に迷いがあるので、ものごとに一生懸命に打ち込むということは、なかなかできない。しかしももクロのライブ・パフォーマンスからは、メンバーたちの心の迷いは微塵も感じられない。ひたむきに、そして必死にパフォーマンスに打ち込んでいる。「自分が望んだ道ではなかったはずなのに、どうしてこの子たちはこんなにも頑張れるのだろうか」と、不思議に思った。

■百田夏菜子の自己矛盾とその解決構造(クイック・ジャパン109号)

百田夏菜子は、「前へ出たがらない性格なのにリーダー」という点で、くっきりと自己矛盾している。「ピンキージョーンズの衣装として用意された大きなインディアンの羽根飾りを見て、自分だけ目立つのは嫌だと大泣きした」というエピソードが知られている。また、「おバカなのにリーダー」という点も、常識に反している。

クイック・ジャパン109号の百田夏菜子特集では、その序文に「バカなリーダーと思われているならそれで正解と思う」という夏菜子の発言があった。「もはやおバカであることを否定しない、それをそのまま受け入れる」と、自己矛盾を否定せず、それを受け入れているようだ。

同号の長期密着ドキュメントでも、百田夏菜子は「自分だけ目立つのは嫌」と語っている。紅白歌合戦初出場や春西武を経ているにも関わらず、である。とすると、百田夏菜子は、この部分でも自己矛盾をしっかり認識しながら、リーダーを、そしてセンターを務めていることになる。

インタビュー記事では、「自分の成長スピードに頭が追いついていかない」としながらも「常に最高の自分を探している」「悩んでいる姿は見せたくない」「悩んでも、帰宅する新幹線の中で自己解決できる」と語っている。百田夏菜子は、自己矛盾から目をつぶることなく、たくましく一番目立つ場所に立ち続けている。なぜ、このようなことができるのだろうか。

その答えのひとつは、精神鑑定の記事にあった。「百田夏菜子は、精神年齢が低いが、旺盛な好奇心と奔放な想像力を持っていて、未成熟さゆえに伸びしろが大きい」と診断されている。自分にブレーキをかけることを知らない子供の心が、自己矛盾など気にせず一生懸命に努力し続けることを可能にし、百田夏菜子を不動のリーダーたらしめている。そしてこの子供の心が純粋に輝いているから、見る人に太陽を感じさせるのである。

■高城れにの自己矛盾とその解決構造(クイック・ジャパン112号)

高城れにも、「人前に出るのが苦手でカメラが恐いのにアイドルをやっている」「内気でシャイな性格なのに、ブッコミ担当」「最年長なのに行動が最も幼い」などと、いろいろと自己矛盾している。

クイック・ジャパン112号の高城れに特集を読むと、彼女が実にユニークな女性であることがわかる。長期密着ドキュメントでは、感受性の高さとユニークな感性が指摘されており、「不思議なパワーの持ち主」とも評されている。「会場と仲良くなるために、空き時間に会場内をウロウロする」というエピソードは、常人から見れば意味不明の行動であるかもしれないが、このような彼女にとっては大切なセレモニーなのだ。

インタビューでは、自分とは何かということへの答えとして「どの自分も本物であると、自分自身を受け入れられるようになった。その結果、余裕が出てきた」と語っている。さらに「メンタルが強くなり、自分で自分をコントロールできるようになった」とも。自己矛盾をいくつも解決した、ということだ。しかしどのようにして、このような境地に至ることができたのだろうか。そして「パフォーマンス面ではいちばん足りてない」との自覚も示されているが、彼女はどうやって、この自覚と折り合いをつけているのだろうか。

続く精神鑑定で、高城れにの深層部分が見えてくる。「抑制のきいた子供タイプで、自分を押さえ気味」「自分に自信を持てていない」という診断である。とすると、高城れには、劣等感を持ちながらも我慢強く努力を続け、それを克服していくタイプだ。まるで、日陰にひっそりと咲く花のように。れにのソロ曲が演歌である理由がわかった気がする。

■玉井詩織の自己矛盾とその解決構造(クイック・ジャパン114号)

玉井詩織は、何でもこなす天才型タイプであるがゆえに、野生児としてつねにのびのびと振る舞っているので、悩みなどはないように見える。それが本当かどうかは、クイック・ジャパン114号の玉井詩織特集を読んでもわからない。ただし、「自分がどんな人間であるかわからない」という、普通の人にとっては大きな自己矛盾が存在していることだけは確かである。

インタビューでは、自分についての言葉が多かった。「ひらめきで考える」「気分をすっと変えられる」「『卒業』を歌うまでは、たいして努力してこなかった」などと、いろいろな角度から自分を見つめ直そうとしていた。しかし最後になって、「これだけ話しても、いまいちわからない」と、自分についての全体像が見えていないことを告白している。

「以前は『自分が、自分が』というタイプだったがももクロに入ってかわった」「高校は卒業したが実感がない」「どんなことが辛かったか、覚えていない」などと、ももクロに加入して以降の考え方や感じ方についても語っている。玉井詩織は、ももクロ加入後の急激な環境変化によって、自分を見失っている状態が続いているのかもしれない。「自分の成長スピードに頭が追いついていかない」という百田夏菜子と、言葉こそ違えど同じ思いを抱いているようにも見える。

精神鑑定では、「のびのびと成長してきた」「年齢に相応しい成熟度」「守られる存在から守る存在へ変化しつつある」と診断されている。本当に、これまでの玉井詩織には、強い自己矛盾は存在しなかったのかもしれない。「たいして努力せずにここまで来られた」という本人の発言は、その通りなのかもしれない。

だとすると楽しみなのは、「玉井詩織がしっかり努力するようになったら、どこまで化けてしまうのか」ということ。モノノフは皆、玉井詩織の覚醒を楽しみにしている。

■有安杏果の自己矛盾とその解決構造(クイック・ジャパン116号)

有安杏果は、子役としての活動期からももクロのメンバーになるまでの間に、何度もつらい思いをしてきた。ももクロに入ってからも、すんなり溶け込めず、ひとりだけぽつんと佇んでいることが何度もあった。さらには、喉の不調による休養期間もあった。「頑張っているのに報われない」という自己矛盾を、常人よりもはるかに多く経験したきた。

クイック・ジャパン116号の長期密着ドキュメント・パート01では、105号に掲載された「米子の夜」の記事が有安杏果自身の意思であったことが明かされている。そしてそれは、「もう大丈夫、なにも心配いらないから」とファンに伝えたいから、と記されている。「ファンを安心させたいから、隠しておきたいであろう自分の悩みであっても隠さず明らかにしていく」というこの行動からは、彼女のまっすぐさと誠実さが感じられる。

続く長期密着ドキュメント・パート02は、喉の休養について。「長い時間をかけて喉の復調に努めた」とあるが、それは「ベストの状態に喉が治らないかもしれない」「ももクロの活動に復帰できないかもしれない」というような不安を長期間抱え続けたということである。精神的に厳しい日々であったろうか、しかし有安杏果は治療を完遂し、完全復活を遂げた。これまでに経験した多くの苦労が、多少の困難にはびくともしない強靱な精神力を育んでくれたのだろう。

インタビューでは、「しっかりと計画を立てている」「本番だけでなく予習・復習もしっかりやって、ダメな部分をなくしていきたい」と、一歩一歩着実に進んでいくと決意表明している。この姿勢にも、彼女のまっすぐさと誠実さ、揺るぎない強さが感じられる。

精神鑑定は大方の予想通り、「精神的に成熟している大人」で、「自分を解放するのは苦手」「自分を責めるタイプ」。「ありのままの自分自身を肯定し、もっと解放することが必要」という診断にも、すんなり納得できる。

心が鍛えられている杏果の視線は、どこまでもまっすぐで、ぶれることがない。「努力をしている」という言葉がほとんど出ない彼女は、努力を努力と感じないくらいそれが当たり前になっているのだろう。自己矛盾しても、それに正面から向き合い、それを乗り越えて進んでいける。そんな戦車のような彼女の前進力が、彼女に巨人を感じさせるのだ。

■佐々木彩夏の自己矛盾とその解決構造(クイック・ジャパン119号)

佐々木彩夏には「かわいらしいアイドルのあーりん、ただしややコミカル」と「しっかり者で度胸のある佐々木彩夏(または佐々木プロ)、ただしややおっさんくさい」という、それぞれに少々込み入った人格が、2つ(厳密には4つ)共存している。このような両立しないキャラを同時に抱え持っていたら、自己矛盾しない訳がない。しかし佐々木彩夏は、「両方とも自分だ」と断言している。

クイック・ジャパン119号のあーりん特集で、百田夏菜子は「最近、あーりんの中に佐々木彩夏を出し始めていて、それがおもしろい」と語っている。高城れには「あーりんと佐々木彩夏の両方が出てきて、あーりんの世界観がすごいスピードで広がっている」と述べている。2つのキャラがぶつかり合っているという訳ではないようだ。キャラは自己矛盾しているが、当の佐々木彩夏は、それらに決して苦しんではいない。

佐々木彩夏特集のインタビューでは、二度の怪我でのイライラや不安、高校卒業後に仕事一本になることへの不安、「秋桜」での失敗と再チャレンジなど、苦しんだことがいろいろと語られている。しかし佐々木彩夏はそれらにしっかりと向き合い、すっきりと片づけて、今は清々した顔をしている。

これらから感じられるのは、人間としてのスケール感だ。より高い次元から自己矛盾を眺めているので、それを楽しむ余裕がある。より深い観点から自己の悩みを観察できるので、比較的短期間で悩みを解決できるのだろう。

佐々木彩夏特集の本人の精神鑑定でも、このことが裏付けられている。「大人成分が多い」「現実主義で精神的にタフ、対応能力が高い」ため、「高い成熟度を持ちながら未成熟を演じる」「男らしい覚悟や図太さを持ちながら、かわいい女の子を演じる」という矛盾を超越することができる、と診断されている。

佐々木彩夏がプニプニなのは、ほっぺだけではない。心も、はちきれそうに大きい。自己矛盾があってもそれに苦しめられるのではなく、逆にその自己矛盾を楽しんでしまう余裕がある。余裕があるから、いい意味での「がさつさ」も生まれてくるのであろう。

■まとめ

クイック・ジャパンのメンバー特集号は、毎号、鋭い切り口から本人の本質に迫っている。読めば読むほど、彼女たちの果敢な戦いぶりが見えてきて、涙腺が緩くなる。

「どのような自己矛盾や悩みを抱え、それをどのように解決しているか」という観点から見ると、ももクロの5人は、そのパフォーマンス同様に、それぞれが実に個性的である。そしてそのそれぞれが、具体的な成功事例として、示唆に富んでいる。「どうすれば、自己矛盾と悩みを乗り越えて、一生懸命に努力できるようになるのか」、その5つの答えが、ここにある。

この研究成果を、今後の生徒の人生相談に活用していきたい。うちの塾の生徒たちにも、ももクロのメンバーたちにも、幸せな人生を歩んで欲しい。そのために私は、一生を塾に捧げ、頑張りたい。頑張りたい。スットコドッコイ。